侮れない猫背、意外な万病のもと 肩こり・腰痛…

スマートフォンスマホ)にパソコン、携帯型ゲーム機、女性のハイヒール……。現代の生活は姿勢が悪くなるものばかりで、普通に暮らしていても猫背になってしまう。「たかが猫背」と侮れない。肩こりや腰痛など様々な病気の原因となっている可能性もある。鏡を見て自分の姿勢をいま一度見直してみよう。

 「写真を撮るときにあごを引くように言われる」「座るときには背もたれによりかかる」「足を組むことが多い」「スマホをよく見る」。1つでも当てはまると猫背になっている可能性がある。

 人間の背骨は緩やかにS字を描きながら頭部を支えている。胸の部分の胸椎のカーブがきつくなった状態が猫背だ。最近はパソコンやスマホなどを扱うときに前かがみになりやすい。意識して姿勢を正さないと、猫背のまま固まってしまう。


■「楽だから」禁物


 なぜ猫背が癖になるのか。理由はその方が楽に感じるからだ。背筋が伸びた姿勢を保つには背筋や腹筋を使うが、実際は猫背の方が筋肉にかかる負担が大きい。それでも猫背を続けることで脳も「これが自然だ」と誤認し、癖になってしまう。




 とはいえ、楽な姿勢=正しい姿勢では決してない。昭和大学の平泉裕准教授は「猫背は心身ともに悪影響を及ぼすので注意が必要」と警鐘を鳴らす。

 まず、肩が前に来て胸が閉じた状態になるため、胸郭の働きが鈍くなって呼吸が浅くなり、代謝機能が落ちてくる。酸素の摂取量が減れば脳などの活動に悪影響を及ぼす。運動能力が低下するほか、勉強していても集中力が高まりにくいなどの問題が起きる。

 肩こりも招く。頭が前に突き出すと、背中や肩の周辺にある僧帽筋が頭を支えようと緊張し固くなる。頭部は全体重の約10%を占めるといわれ、それを支える僧帽筋には相当な負荷がかかる。

 背骨は自律神経などの通り道。背中が丸いと神経が圧迫され、様々な体調不良を招く。片頭痛や内臓機能の低下などにつながる恐れがある。「姿勢が悪いだけ」と甘く見ていれば、いつの間にか深刻な症状に発展しかねない。


虎ノ門カイロプラクティック院(東京・港)の碓田拓磨院長は「猫背だとプラス思考になりにくくなる」と精神面への弊害を指摘する。学生などを対象にしたアンケート調査の結果でも「悪い姿勢でいれば幸福な気持ちになりづらいことが分かった」という。「肩を落とす」の言葉があるように、猫背はその人の気分が落ち込んでいるように映り、実年齢より老けて見える。


■ソファより椅子





 直すにはどうすればよいのか。加齢で背骨が変形した場合は外科手術などが必要だが、平泉准教授は「若い人であれば、直そうという意欲と努力があれば回復できる」と指摘する。碓田院長は「背中を丸める癖が抜けないことには姿勢は良くならない」と話す。まずは、日常生活から姿勢を正す努力を続けよう。

 働いている人はオフィスでの姿勢に気をつける。椅子に座るときは背筋をしっかりと伸ばし、足の裏を床に着けて、足首や膝の角度をほぼ直角にする。肘を90度曲げたところにパソコンのキーボードなどを置く。画面は最上部が目の高さにくるように調節する。30分間作業をしたら席を外し、首筋を伸ばすとよい。

 帰宅後は、軟らかなソファに座るのは避ける。平泉准教授は「座面が軟らかいと、どうしても背中が丸くなる。食卓の硬い椅子に座るのがおすすめ」と話す。

 体の胴体部分にあたる体幹の筋肉を鍛えると姿勢がよくなる。体幹を鍛えるために、電車通勤時は座らずになるべく立つルルド ネックマッサージャー

 猫背を直す体操もある。碓田院長は両手を腰の後ろに回して指を組み、ゆっくり背中を反らせる「キャットレッチ」を提唱する。この動作を1日20回やる。碓田院長は「猫背は丸まったポスターみたいなもので、裏側に丸め直せば元に戻る」と体操の効果を訴える。